サプライチェーンの監視
監査員の1日
パヤル・ジェインとトビアス・フィッシェルは、H&Mのために働くおよそ50名の監査員の一員です。2人の仕事は、H&Mのサプライヤーにおける労働条件を調べ、ILOの中核的条約とH&Mの行動規範の遵守を確認すること。2人は一緒に働いており、ニューデリー市内とその周辺地域のサプライヤーを担当しています。
パヤルとトビアスは、早朝、車で工場の門に到着しました。今日、2人が来ることは誰も知りません。H&MのIDバッジを身に付けていることで、警備員と工場の従業員は2人の正体を知りました。6カ月前にこの工場の労働条件に関する総合的監査が実施されており、パヤルとトビアスは、今日、前回の監査で設定された短期的目標をサプライヤーが達成しているかどうか確かめに来たのです。
行動規範が出発点
他のすべてのH&Mのサプライヤーと同じく、この工場も、労働環境に関する国内法とH&Mの要件を遵守することを約束する協力協定――H&M行動規範――を結んでいます。協定には、H&Mの監査員が抜き打ち監査の実施を規定する条項も盛り込まれています。
「私たちは、新規サプライヤーと取引を開始する際には必ず、徹底的な監査を実施します。この監査には、2日間から7日間を要します。工場長と協力して、主要な改善領域を見極め、行動計画を決定します。計画には、長期的・短期的目標が盛り込まれ、目標の達成方法、責任者、完了期限が詳しく記載されます」と、トビアスは説明しています。
抜き打ち監査
パヤルとトビアスは、工場に入り、工場長に面会を求めました。工場長はあいさつを済ますと、工場内を視察する2人に同行しました。1998年にH&Mがインドに行動規範を初めて導入して以来、監査員が工場を繰り返し訪れています。
「最初の頃は、工場主たちは、こんなふうに調べられることに少し慣れない様子でした。それが今では、抜き打ち監査が監査員の仕事の要であることを理解しており、私たちが突然現れても驚く人はほとんどいなくなりました」とパヤルは言います。
改善の実施
監査員の2人は、火災避難口を確認し、工場の代表者と火災時の手順について話し合いました。話し合いでは、火災報知器、非常口、消火器の設置の件だけでなく、工場が常に清潔で整理整頓の行き届いた状態にすることや十分な数のきちんとした衛生的なトイレを設けることなども取り上げられます。労働環境は、従業員の福祉にとっても、生産される衣料品の品質にとっても重要です。前回の監査時に比べ、労働環境の大幅な改善が見られたと、パヤルは述べています。かつて、この工場には、裁断機から出た材料の切れ端や生産エリアから出た糸くずが放置されているという問題がありました。今では、清掃員の数が増やされ、適切な道具や設備が整えられ、手順も改善されています。この工場はクリーンになり、従業員にとって安全性と快適性の向上した職場になりました。
時間外労働の問題
パヤルとトビアスは、工場の視察を終了すると、サプライヤーの事務所に行き、従業員関連の書類を調査します。給与情報や従業員記録を確認し、時間外労働の状況を調べます。最近、この工場の一部の部門で人員不足になっていました。それが生産活動の障害になり、行き過ぎた時間外労働につながっていました。タイムカード、給与情報、生産記録の調査を終えたパヤルとトビアスは、時間外労働時間が削減されたことを確認できましたが、それでも法定限度を超えていることが分かりました。サプライヤーは引き続き行動計画に従う必要があります。
ここで2人がニューデリーのH&Mの事務所に戻る時刻になりました。事務所に帰ると、監査結果を記録し、スウェーデン本社のCSR部門に報告を入れます。
考え方に影響を与える仕事
監査員の仕事は、他の人々の考え方と行動に影響を与えることが必要になるため、決して単純な仕事ではありません。パヤルはこう説明します。
「H&M行動規範と私たちとの協力から得られるものが大きいということを、サプライヤーに納得させるのは、場合によっては至難の業です。従業員のやる気がアップし、生産性の向上につながる可能性があることに、目を向けてもらう努力しています。私たちが、サプライヤーに永続的な改善努力をしてほしいと考えているのは、買い手に義務付けられているからばかりでなく、サプライヤー自身の目でメリットを確認できるからです。私の考えるところ、サプライヤーの果すべき課題とは、私たち監査員を失業させることなのです」
